Journey

写真と日記🏝✍

Father

はてなインターネット文学賞「記憶に残っている、あの日」

 

わたしの記憶に残っている、あの日のこと。

父とは15年ほど会っていない。

両親が離婚して以来、お互いに音沙汰なし。

わたしが小さい頃は父に対して寂しさや嫌悪を抱いたこともあったけど

今ではそんなことは全く思わない。

 

その頃に比べたら、大人の事情も理解しているし

理解がずっと続くわけでもない、

逆に続けていくことの方が難しいこともわかっている。

 

そんな父との記憶の中で、唯一鮮明に覚えているもの。

それは、父との最後の日のこと。

 

いつもと変わらず、スーツ姿の父。

朝、見送ることは滅多になかった。

わたしが学校に行くよりも早く会社へ出ていたので

いつもとの違いに違和感を持ちながらも

玄関へ向かった。

見送るわたしと母。

「出張だから、しばらく帰ってこない」

と告げた父を元気に見送った。

それが最後。

 

もちろんそれは、まだ幼いわたしのために驚かせまいと

母と父が口裏を合わせた嘘だし

それでも最後に立ち合わせようと思った母の意思だとは

今になればすぐに理解できる。

 

それから数日経って、

帰ってこない父のことに対して

母は口を開いた。

 

人生で初めて、

「話があるから座って。」

と叱る以外で呼ばれた時だったのをいまだに覚えてる。

 

父と離婚した、と。

始めは普通に話していたが、途中からは堪えきれなくなったんだろう

目を赤くして声を震わせながら話をする母。

初めて見た、母の泣き顔。

 

母を泣かせた父は、いい旦那ではなかったんだろうきっと。

あの日から片親になり、わたしも強く居ることを強いられはしたけれど。

それでも父を恨んだりはしていない。

 

今、どこで誰とどんな風に生きているのか。

あれから随分と時間が経ったけれど

たまに、本当にたまに、わたしを思い出したりするんだろうか。

今は、わたしをどう思ってるんだろうか。

 

全てを知る機会は、

この先も一生訪れないだろうし

もう二度と会うこともないだろう。

お互いどちらかが、仮に死んでしまったとしても

その報せすらなく、知らずに生きていくんだろう。

 

わたしの思いを本人に語ることもない。

それでも願う。

どうか、どこかで幸せで会ってほしいと。

どうか、長く健康で生きていてほしいと。

 

この15年、覚えていようと思ったわけではなかったけれど

ずっと記憶に残っていた。

だから、これから先もなくならない記憶なんじゃないかと思う。

 

そばにいなくても、

あなたがわたしの父であることには変わりない。

これからも、たまに思い出しては

元気かな?と心の奥で尋ねてみるよ。

最後の日のあの姿を思い出して。